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No. 20061 エドワーディアン スターリングシルバー トレフィッド パターン ティースプーン with コート オブ アームズ(紋章)
SOLD
長さ 10.1cm、重さ 13g、最大幅 2.2cm、ボール部分の長さ 3.1cm、柄先の最大幅 1.35cm、柄の最大厚み 2mm、1904年
ロンドン、一本 五千円 (6本あります-->4本あります-->3本あります-->SOLD)
今から百十年以上前に作られた純銀製のエドワーディアン アンティーク シルバーティースプーンです。
柄の裏面に刻印されているブリティッシュ シルバー ホールマークは順にメーカーズマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、ロンドン レオパードヘッド、そして1904年のデートレターになります。
エドワーディアンの銀スプーンですが、そのフォルムはイギリスにおけるスプーンの歴史の中でもとくに古い17世紀トレフィッドパターンを踏襲しています。
Trefid pattern:1660年のチャールズ二世の復帰とともに、スプーンの柄先にある二つの刻み目(Two notches)を特徴とするトレフィッド パターンが流行しました。
羊あるいは山羊の紋章が彫られていて、紋章のモチーフとしては珍しいので、この百年以上前に作られたアンティーク 銀スプーンの背景に興味を惹かれます。 紋章デザインに採用される動物というのは、普通ですとライオンやドラゴンなど強い獣が多いものですが、羊毛業で栄えた家ならば羊もありなのかなと見ています。
小振りながらもしっかり出来た銀のスプーンです。 トレフィッド パターンと言うのも珍しく、この品を注文したオーナーの製作意図として、このパターンが流行った頃のイギリスは羊毛産業で潤った時代であったことと関係があるのかも知れないと思いました。
紋章の基礎知識について、少しお話しましょう。 一般に紋章はコート オブ アームズと言うのが正式です。 クレストという言葉もありますが、クレストとは紋章の天辺にある飾りを言います。 紋章の各部分の名称として、例えば英国王室の紋章の両サイドにいるライオンとユニコーンの部分をサポーターと言い、中央の盾状部分をシールドまたはエスカッシャンと言います。 さらに細かく言うと、写真のティースプーンに刻まれた紋章では下に棒状の飾りが見えますが、これはクレストの台座であって、リースと呼ばれます。
ただし、紋章のすべてを描いて使うのは、大掛かり過ぎるので、その一部をもって紋章とされることも多く、中紋章とか大紋章という言い方もあります。 しかし、その区別は厳密でないので、紋章の一部をもってコート オブ アームズという言い方をしても差し支えありません。
コート オブ アームズ(=紋章)を使っていた人々とは、どういう階層の人たちであったのか、考えてみました。
コート オブ アームズの体系化や研究は、イギリスにおいて九百年ほどの歴史を持っており、紋章学(Heraldry)は大学以上の高等教育で学ぶ歴史学の一分野となっています。 中世ヨーロッパにおいては、多くの国々に紋章を管理する国家機関がありました。 今ではなくなっているのが普通ですが、面白いことにイギリスでは紋章院がまだ活動を続けています。
今日のイギリスは品のよい国のように見られることが多いですが、その歴史を紐解きますと、節操のないことで名高い時代も長くありました。 キャプテン・ドレークは世界を航海して略奪をきわめて、当時の国家予算に匹敵するほどの金銀財宝を奪って帰ってきたので、エリザベス一世から叙勲を受けました。 お金がすべてという傾向は、紋章院においてもあったようです。
紋章学や紋章院の働きについて書かれた本が、『HERALDRY IN ENGLAND』(Anthony Wagner著、Penguin Books、1946年刊)です。
この本によりますと、紋章院が認めてきたコート オブ アームズは四万あるとのこと。
一方で英国の王侯貴族にあたる家柄は千足らずとなっています。
この数字のバランスから分かることは、第一にコート オブ アームズは王侯貴族だけのものではないこと。 第二に、そうは言っても、代々伝わるコートオブアームズがある家系は、英国の中でも数パーセントに過ぎず、その意味で日本における家紋とはだいぶ違っていること。
産業革命が進行して、新興富裕層が厚くなってきたのがヴィクトリア時代の初め頃になります。 当時の富裕層はコート オブ アームズを求めましたし、また求めれば手に入る性質のものであったようです。
なお、このアンティークが作られた当時の様子については、「英国アンティーク情報」欄の「14.Still Victorian(百年ほど前のイギリスはどんな様子であったのか?)」の解説記事もご参考ください。
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