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No. 20049 アール・デコ スターリングシルバー ティースプーン with ピアストワーク SOLD
長さ 10.8cm、重さ 10g、ボール部分の最大幅 2.3cm、透かし柄の最大幅 1.3cm、1943年 バーミンガム、(6本あります-->SOLD)

今から70年以上前に作られたスターリングシルバー ティースプーンで、アール・デコの直線的なデザインとピアストワークが特徴的です。 ボールの裏面にはメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1943年のデートレターが刻印されています。

この品が作られた1943年といえば第二次世界大戦中のことであり、実際のところ当時のイギリスはデザインやアートどころではなかったのですが、このティースプーンのデザイン的な背景としてはアール・デコの系譜上にあるものとみてよいでしょう。

一般に1920年代から30年代はアール・デコの時代と言われます。 ヴィクトリアンあるいはエドワーディアンの伝統的で凝ったシルバーデザインとは大きく異なる変更が、この時代にあったことは、とても興味深いと思います。 ある解説によれば、このデザイン上の大きな断絶を生み出した最大の要因は第一次大戦だったと言われています。 当時の人たちはヴィクトリアンとエドワーディアンの輝かしい伝統の延長上に世界大戦が起こったことに大きなショックを覚え、ポストワーの時代には、昔の時代から距離を置きたいと望む風潮が強く、そこにアール・デコがぴたりとはまったというわけです。 

アール・デコについてはいろいろな説明がありますが、この解説はかなり言いえているように思います。 イギリスを隅々まで旅してみて、どんな小さな田舎の村にも、第一次大戦の戦没者を悼む記念碑が建っているのを知りました。 英国人の暮らしを根底から揺るがした出来事であったことが想像されるのです。

そして時はくだって世界は再び戦争の惨禍に見舞われることになりました。 この品が作られた1943年は第二次大戦の最中になります。 英国は戦勝国とはなったものの、大変な時期であったことは間違いありません。 ロンドンはドイツから弾道ミサイルの攻撃を受けたり、爆撃機による空襲も頻繁にありました。 私の住む街はロンドンの北の郊外で爆撃の目標にはならなかったようですが、近所のお年寄りの話では、ロンドンを空襲した帰りの爆撃機が、余った爆弾を燃料節約の為に投棄していくコースに当たっていて、怖かったとのこと。 

とは言うものの、写真のようなピアストワークの素晴しい、不要不急の銀製品を作っていたとは、当時のイギリスは結構余裕もあったんだなあ、と思うのです。

このころの時代を知る手掛かりとして、近所のゴルフ場でシニアゴルファーのおじいさんからお話を伺ったことがあります。 そのゴルフ場は1935年にオープンして七十年以上の歴史があるのですが、そのおじいさんが子供の頃に初めてプレーしたのが1942年だったそうです。 当時は戦争中でガソリンは貴重だったので、芝刈り用のトラクターが使えず、羊を放牧してフェアウェーの芝の長さを調整していたとのこと。 「たまに羊にボールが当たって大変だったよ。」とおっしゃっていました。

そのおじいさんはイギリス貴族というわけではなくて、いわゆる庶民にあたる方と思いますが、イギリスでは戦争中も普通の人たちがゴルフをしていたのかーと。 ガソリン不足で芝刈りが大変だったのは分かるけど、日本のおじいちゃん、おばあちゃんから聞いてきた戦争の苦労と比べると、どうでしょうか? 戦争というものは、勝つ側と負ける側では、やはり桁違いな相違があるものだと思った次第でした。

写真の銀ティースプーンが作られた当時のイギリスについて、もう一つご紹介しましょう。 1946年4月に発表されたエセル・ローウェル氏の『現在の意味』という論文に、第二次大戦中のロンドンにおける空襲後の一婦人の話があります。

『爆撃の一夜が明けてから、一人の婦人が砲撃された我が家の戸口に幾度も行って、心配そうに往来をあちこち見ていた。 一人の役人が彼女に近づいて、「何か用ならしてあげましょうか。」

彼女は答えた、「ええ、どこかその辺に牛乳屋さんはいませんでしたか。うちの人が朝のお茶が好きなものですから。」

過去は敵意あり、未来は頼みがたい、が、道づれとなるべき現在は彼女とともにそこにあった。 人生は不安定であった。 しかし、…… 彼女の夫は一杯の朝の茶をほしがった。』(引用終り)

「絶対的現在(=永遠の今)」にしっかり足をつけて立つという意味で、私はこのお話が好きです。 


アール・デコ スターリングシルバー ティースプーン with ピアストワーク






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