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31. 『Punch:1873年2月2日号』 ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞


ヴィクトリアン中期のアンティークな新聞が手に入りましたので、ご紹介したいと思います。 

『Punch』はヴィクトリアン時代初期の1841年に創刊された週刊新聞で、1992年の最終号まで実に150年余にわたって、英国的ユーモア精神でイギリスの世相を伝えてきました。ヴィクトリア時代をほぼカバーしていることから、『Victorian England as seen by Punch』といった解説本などもあって、歴史研究の基礎資料にもなりえます。また、『Punch』は紙面に数多く戯画が掲載されているので、見て楽しめることは私達にとってもありがたい特色になっています。

写真一番目は1873年2月22日号の表紙ですが、この表紙デザインは毎号同じで、左の人物がMr. Punchになります。『Punch』の名前の由来は英国のパペットショー(滑稽な人形劇)である「Punch and Judy」の主人公の名前から来ています。


31.『Punch:1873年2月2日号』ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

『Punch』を通じてヴィクトリア時代全般を語ることは大掛かりな仕事になりますので、それは日本でも手に入る 『「パンチ」素描集、一九世紀のロンドン』(岩波文庫)等をご覧いただくとして、今回は『Punch』の広告欄に注目してみたいと思います。表紙に続いて二ページ目を見ると、写真二番目のような広告欄になっています。シルバースミスの広告が眼に留まり興味を覚えましたし、他の広告も眺めていくと、当時のイギリスの暮らしが見えてくるように感じました。以下では順々に少し150年ほど前の広告を見ていきましょう。

(1)Indian Parcel Post(左上から四番目)
ロンドンからインド各地の港まで、P&O船会社を使って荷物を送る広告です。重さは最大50ポンド(22.7 kg)まで、1ポンド(0.454 kg)当たりの料金は 1 s. 4 d.です。重量上限 50ポンドは小さめなので、ビジネス向けと言うよりも個人向けの運送便のようです。大英帝国がインドを併合したのは15年前の1858年のことで、英印間での物流が活発だったことを示しています。イギリスからインドへ渡った人たちも多かったはずで、本国からインドに住む親戚宛に荷物を送るといった需要が多かったのではないかと思います。

(2)Colt's (右下)
ホルダー入りのデリンジャー ピストルの広告です。ウェストコートのポケットに携帯できて、正確でパワーのある射撃が出来ると宣伝しています。 
アメリカの西部劇ほどではないにしても、当時のイギリスもピストルが簡単に手に入って、けっこう物騒だったことが分かります。

31.『Punch:1873年2月2日号』ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

(3)蝋燭の広告(中ほど下段)
「Burn The Star Night Lights. For Safety, Economy and Regularity. 6, 8 and 10 Hours. Sold Everywhere.」 とあります。
150年前当時は電気の時代ではなくて、ランプと蝋燭の時代だったことを、あらためて知らせてくれます。
ヴィクトリア時代の明かり事情については、「22.明かり、間接照明と持ち家志向、ロンドンアンティーク事情」の解説記事をご覧ください。


(4)Ladies' Ornamental Hair (中ほど下から二番目)
こうした広告は他にも散見されます。


(5)Mappin Brothers(中ほど上段)
広告が大きくて、掲載されている場所も良いので、1873年当時の「Mappin Brothers」の勢力が強かったことを示しています。英国アンティーク シルバーファンとしては興味を惹かれる広告です。
「The Stock they keep in London, at 67 King William Street, London Bridge, also at 220 Regent Street, is very large and well assorted, being all of first-class quality and design.」 とありますので、ロンドン ブリッジとウェストエンドのリージェント ストリートにショールームがあったようです。

マッピン関連のアンティークを扱っていると、「Mappin & Webb」とよく似た名前の「Mappin Brothers」というシルバースミスに出会うことがあります。
「Mappin Brothers」は1810年にジョセフ・マッピンが創業した工房で、彼には四人の後継ぎ息子がありました。四人は上から順にフレデリック、エドワード、チャールズ、そしてジョンで、年長の者から順番に父親の見習いを勤めて成長し、1850年頃には引退した父ジョセフに代わって、四兄弟が工房を支えていました。

ところが末っ子のジョンは、工房の運営をめぐって次第に兄たちと意見が合わなくなり、ついに1859年には「Mappin Brothers」を辞めて独立し、「Mappin & Co」という銀工房を立ち上げました。 以後しばらくの間、「Mappin Brothers」と「Mappin & Co」は「元祖マッピン家」を主張しあって争うことになります。

しかし最初のうちは「Mappin Brothers」の方が勢力があったこともあり、1863年には末っ子ジョンの「Mappin & Co」は「Mappin & Webb」に改名することとなりました。Webbというのはジョンのパートナーであったジョージ・ウェブの名から来ています。

「元祖マッピン家」問題では遅れをとったジョンでしたが、兄たちよりも商売センスがあったようです。スターリングシルバー製品以外に、シルバープレートの品にも力を入れ、目新しい趣向を凝らした品や新鮮なデザインの品を次々と打ち出し、しかも宣伝上手だったのです。ヴィクトリアン後期には当時の新興階級の間でもっとも受け入れられるメーカーに成長し、それ以降のさらなる飛躍に向けて磐石な基盤が整いました。

20世紀に入ってからの「Mappin & Webb」は、「Walker & Hall」や「Goldsmiths & Silversmiths Co」といったライバルの有名メーカーを次々にその傘下に収めて大きくなり、今日に至っています。 また「Mappin Brothers」ですが、時代の波に乗り切れなかったのか、1902年には「Mappin & Webb」に吸収されてしまっています。


(6)Elkington & Co.(左下)
広告トップに「CAUTION」とあって、注意喚起の広告であることが分かります。
「最近、一部の悪質業者がエルキントンの名を語り、粗悪な偽物を販売しているので、お客様はあられては十分注意されたし。その手口はエルキントンのメーカーズマークを偽造し、劣悪な品質のプレートウェアに刻印した上で、ELKINGTON'S BEST ELECTRO-PLATEとして販売しているもの。 エルキントン社では公衆に対して、そうした偽物に騙されないよう注意を促すと共に、以下の五つのオフィスにて真贋鑑定を行っているので、怪しい品があればいつでも持ち込まれたし。」

偽物横行とは油断のならない世の中だったようですが、エルキントン社がそれだけの一流メーカーに成長していたことを示す面白い資料とも思いました。
Elkington & Co.については、「10.エルキントン社のシルバープレート技術 と 明治新政府の岩倉使節団」の解説記事もご参考ください。


以上が150年ほど前の『Punch』広告欄を眺めたものですが、時代の雰囲気が少しは伝わりましたでしょうか。

終り

【追記】
お客様から「ポンチ絵」と、『Punch』の表紙下部に掲載されている「Mr. Tenniel's cartoons from Punch」についてご質問をいただきました。追加情報として皆様にもご紹介させていただきます。

日本でマンガや戯画を指す古い言い方に「ポンチ絵」という言葉があります。この言葉の由来を遡っていくと、英国の『Punch』に行き着くのですが、ただワンクッション入っていて、明治時代のジャパン パンチが直接の出所になります。『Japan Punch』は Illustrated London Newsの特派員として来日したチャールズ・ワーグマンが横浜で1862年に創刊し1887年まで続いたもので、英国の『Punch』を模した日本版ともいえるものです。

それから、写真一番目の表紙の下部に「Mr. Tenniel's cartoons from Punch」とあります。パンチの表紙を描いているのがMr.テニエルのようにも見えるのですが、そうではなくて、この部分は実は広告欄になっています。細かな文字まで読んでみると、これまでにMr. テニエルが『Punch』に描いてきた戯画を集めた本が出版されて、お値段は2ポンド10シリングとあります。ずいぶん高い本なのですが、大きくてエレガントな革張り装丁本とありますので、かなり立派な出版物であったようです。ちなみに、この表紙を描いたのはリチャード・ドイルという同じくパンチの人気挿絵画家です。

このジョン・テニエルは五十年に渡ってパンチの人気挿絵画家だったのですが、むしろ今日では『不思議の国のアリス』の挿絵の方が有名でしょう。木に上ったチェシャーキャットをアリスが見上げる挿絵と言えば、誰もが思い当たるのではないでしょうか。 

テニエルは引き受けた『不思議の国のアリス』の挿絵を描くにあたって、本業であったパンチの戯画イメージがついつい出てしまったようです。




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