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Good Luck ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。

スターリングシルバー GOOD LUCK ホースシュー ペンダントヘッド
写真で見てホースシューの横の長さ 2.4cm、縦 2.3cm、最大厚み 3mm、1935年 バーミンガム 

このスターリングシルバー ホースシュー(馬の蹄鉄)のペンダントヘッドが作られたのは今から八十年ほど前の1935年です。 銀地金の雰囲気がよく出たリアルな蹄鉄のデザインになっています。 ライオンパサントの横の長さは3ミリほどあって、大きめなホールマークが刻印されているのは、ホールマーク自体を見て楽しむという作り手の意図を反映しているのでしょう。

U字の開口部が下向きになる逆U字型で、これはヴィクトリアンからエドワーディアンの時代に好まれたホースシューの向きです。その後、第一次世界大戦を経て、現代人好みのU字型が好まれるようになっていきました。

http://www.igirisumonya.com/20121
ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

アール・ヌーボーからアール・デコに嗜好が変わっていったように、大戦争のビックインパクトが社会に与えた影響の大きさを反映しているのではないかと思っています。

写真のホースシュー ペンダントヘッドの場合は、昔好みな方の嗜好を反映した留め具の付け方になっているというわけです。

もう一つ取付穴があって、横置きも可能になっています。ヴィクトリアン タイプが落ち着くメンタリティーの旧世代の人から、新世代の方にオーナーが変わって、横置き用に仕様変更されたのではないかと思い、興味深く見ております。

ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

裏面にはホールマーク以外にも、デザイン登録したレジスター番号と、「ENGLAND」の刻印が見えています。 ホールマークは順にHG&Sのメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1935年のデートレター「L」になります。 もう一つ、シルバージュビリーのマークも刻印されているのも面白いところです。

ヴィクトリアンやエドワーディアンの作ではありませんが、それでも1935年作といえば、かなり古い品であることがお分かりいただけると思います。 アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』が1934年に出ており、この頃の様子を知る手掛かりによさそうと思います。 

写真二番目で見て、左側上から三つ目にあるライオンの刻印が、英国製スターリングシルバーの銀純度を保証するマークになり、重要な刻印です。 このライオンパサントの歴史について少し解説しておきましょう。 

横歩きライオンのマークが初めて導入されたのは今から500年ほど前の1544年のことになります。 これは当時テューダー朝のヘンリー八世が行った低品位銀貨の鋳造と関係があります。 歴史上どこの国でも財政が逼迫してくると、悪貨を鋳造することがひろく行われてきました。 日本の江戸時代にも同じようなことがあったと思います。 

銀貨と銀器がほぼ同等な価値を持っていた昔の時代にあっては、お上の定める低品位銀貨の価値でもって、高品位な銀器と交換されてしまっては、損してしまうことになります。 そこでその銀器が92.5%の銀純度であることを保証するマークとして、ライオンパサントが導入されたわけです。 

歴史や伝統に格別なこだわりを持つイギリス人は、ライオンパサント(=横歩きライオンの刻印)にも特別な愛着があって、五百年の長きにわたって、この刻印を使い続けて今日に到っております。

ホースシューはイギリスではグッドラックの意味があって人々に好まれます。 縁起のよさが好まれ、パブの看板に蹄鉄三つが描かれて、写真三番目のような「Three Horseshoes」なんていう名前のパブもありますので、「ホースシュー=幸運」の図式はイギリス人の暮らしに深く根ざしていることが分かります。

ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

シャーロック・ホームズの『白銀号事件』を読んでいましたら、ホームズの「I think that I shall put this horseshoe into my pocket for luck.(このホースシューは幸運があるように、私が貰っておきましょう。)」という台詞に出会いました。 この探偵小説は1892年12月に発表されていますので、少なくともヴィクトリアンの頃には、「ホースシュー=グッドラック(幸運)」の連想があったことが分かります。 シャーロック・ホームズ シリーズには、アンティークなヴィクトリアンの暮らし向きが読み取れる場面が豊富なので、注意して読むと面白いようです。

それから、蹄鉄の滑り止めはカルカン(Calkin)と呼ばれるのですが、ちょっと注意して見てみると、このホースシューのカルカンは左側に三つと右側に四つの合わせてラッキーセブンになっています。 ホースシューが本来持っている幸運の意味合いに、カルカンのラッキーセブンが掛け合わされて、ラッキーの二乗になっていることから、より効果のありそうなホースシューに作られているのです。 

それでは、なぜホースシューが好まれるようになったのか。 ヴィクトリア時代に書かれた 『The Horse Shoe, The True Legend of St. Dunstan and The Devil』 という書物には、ホースシューにまつわる伝説が書かれています。 その概要をご紹介してみましょう。

後にカンタベリー大司教になったセント・ダンスタンは、ハープを弾くのが上手で鍛冶屋の仕事もこなす器用な人でした。 ダンスタンが夜にハープを奏でていると、デビルがやって来て邪魔をするようになりました。 デビルの悪戯に困ったダンスタンは一計を案じて、蹄鉄を取替えに来たデビルの蹄足にホースシューの留め釘を深く打ち込んだのでした。 

痛がるデビルにダンスタンはこう言います。 「これからは礼拝の邪魔をしないこと、音楽を奏でる邪魔をしないこと、そしてホースシューを掲げた家には寄り付かないこと。 これを守るなら直して進ぜよう。」 デビルはダンスタンと契約をかわし、以降はホースシューが魔除けの役割を果たすようになり、さらには Good Luck をもたらすお守りとされるようになったのでした。


ホースシュー伝説のヴィクトリアン本 『The Horse Shoe, The True Legend of St. Dunstan and The Devil』の挿絵
デビル除けのホースシューを逆U字型に取り付けています。

ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)



今ではU字置きが普通ですが、逆U字置きが好まれたのがヴィクトリア時代。

いつの時代に上下逆転が起こったのか、一つの手掛かりがこちらです。

二つのポストカード、上は1918年の消印で逆U字置き、下は1927年でU字置き。1919年には第一大戦が終結しています。私は戦争のインパクトがGOOD LUCK ホースシューをもひっくり返したとみてます。

ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)


ヴィクトリアン後期に作られたホースシュー銀製ロケット、1890年 英国製
逆U字型です。
現代ではすっかりU字型が定着した感のあるホースシューですが、時代を遡っていくと、昔になるほど逆U字型が増えていくようです。
英国製シルバーのよい特徴で、シルバーホールマークを判読して1890年作と特定できることが調査に役立ちました。
ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)


ホースシュー銀製ブローチ、1916年 英国製
先にご紹介したヴィクトリアンの逆U字型に続いて、こんどはエドワーディアン頃の銀です。こちらも逆U字型となっています。この銀ブローチの場合もシルバーホールマークが刻印されていることから、1916年 英国製と分かりました。
ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)


最後は現代に戻って、馬蹄鉄の標識、Harpenden Common
ホースシュー標識があり、馬の通り道を指示したもの。現代風なU字型です。

ここはコモンと呼ばれる村人の共有地で、一定の約束の下でみんなが使える広場です。
世界史の授業で入会地(いりあいち)という言葉を習いましたが、それが英語でCommon。
小さな村でも芝生の広場があって、人々が散歩したり、クリケットをしたり、そんな景色は英国人がずっと守ってきた伝統です。
ホースシューの向き、U字型 or 逆U字型? いつの時代に逆転が起こったのか。(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)


以上、グッドラック ホースシューの置き方を時代毎に見てきました。

ヴィクトリアンからエドワーディアン、そして第一次大戦までは逆U字型。

今では普通なU字型は、第一次大戦を境に登場して、次第に流行っていったことが分かりました。




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