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No. 18222 ヴィクトリアン or エドワーディアン 折りたたみ 鉄製 ボタンフック
伸ばした長さ 8.5cm、折りたたんだ長さ 4.8cm、重さ 17g、ヴィクトリアン終り頃からエドワーディアン頃の英国製、七千五百円

ボタンフックという品は伸ばしていると危ない感じもいたしますが、この品は折りたたみ式で、収納状態ならまったく安心です。 手にしてみると楽しいもので、なにはなくとも、出したり入れたりしてみたくなります。 

赤錆や黒錆が混じっていますが、基本的には黒錆が勝っており、これからもお手入れしだいで、いい感じなアイアン アンティークになっていくでしょう。

フック棒を両側から挟み込む二本のアームが、強力なスプリングの働きをする、なかなかのアイディア品です。 フック棒とアームの接合部は凹凸の形にスティールが切ってあり、アーム両サイドから押す力が強いので、写真一番目のように閉じた状態か、写真二番目の伸ばした状態で、カチッと形状が収まる仕掛けになっています。 

ヴィクトリアンからエドワーディアン頃のブラックスミスの仕事になります。 金属細工人の中でも鍛冶屋さんをスミスあるいはブラックスミスと言いますが、主要な交通手段が馬や馬車であったヴィクトリア時代においては、ブラックスミスはとても重要な職業で、どこの村にも鍛冶屋さんがありました。 カンタベリー大司教になったセント・ダンスタンは鍛冶屋さんでもあったという話がありますが、これなどは昔の時代にあっては鍛冶屋さんの役割が重要であった証左とも言えましょう。

各方面に技術が進歩した現代ではちょっと想像がつき難い所でありますが、昔の時代にあっては鍛冶屋さんは長いあいだ社会の先端技術者であり続けました。 もっと遠い昔、ヒッタイトの時代には鍛冶屋の技術を修めれば征服者にもなれたことに思いをいたしてみるのもよいでしょう。

知り合いに先祖が鍛冶屋さんだった方があって、その方は電気関係のエンジニアですが、科学全般に造詣が深く鍛冶屋の仕事についても、いろいろ教えてもらいました。 赤錆、三酸化鉄、黒錆、五酸化鉄、鉄の焼入れ等々、錆も含めた鉄のコントロールについていろいろ習いました。 ごく簡単に言えば、赤錆は悪い錆びですが、黒錆=四酸化三鉄=トリアイアン・テトラオキサイド(triiron tetraoxide)は鉄を守るよい錆びです。 経験的に知っていたのかも知れませんが、こういう化学知識も備えもって鉄をコントロールしてきたのが、昔の鍛冶屋さんであったのです。

英国アンティークにはスティール アンティークという専門分野があります。 イギリスには世界初の鉄橋で、ユネスコの世界遺産にもなっているアイアンブリッジという誰もが知っている観光地があって、英国人にとってスティール アンティークと言われてまず思い浮かぶのは、この産業革命の遺産であるアイアンブリッジであることが多いようです。 鉄の道具の歴史はかなり古いわけですが、ジョージアンの時代の中頃に始まった産業革命の影響が大きく、次のヴィクトリア時代を通じて、鉄製品が芸術的な領域にまで高められていきました。 ですからイギリスにおけるスティール アンティークとは、この国の人たちにとって誇らしいアイアンブリッジや産業革命の延長線上にあって、ヴィクトリアンのノスタルジーを感じさせてくれるアンティーク分野であるのです。

ちなみに、ボタンフックの使い方は次のようです。 まずボタン穴の表側からフックの先端を差し込みます。 次にフックの先端でボタンの根元を絡め取ります。 最後にボタンを絡めたフックをゆっくりボタン穴から引き出すとボタンかけが完了します。

ボタンフックというのは、イギリスでは時々見かける小道具なのですが、こうした道具が使われる背景に思い当たることがあります。

歴史的にみても、日本ではあまり使われて来なかったと思います。 あったら便利な場合もあるので、特に介護用品としてこれから普及していく可能性はありましょう。 でも普通には、わざわざボタンフックを使うことはあまりなさそうです。

それでは、イギリスで使われてきた背景はどういうことでしょうか。 日本より寒冷な気候のイギリスですから、寒くて指先がかじかんだ時などは確かに便利です。 手袋をしたままでもボタンかけOKという利点もあります。

また、大きな歴史観から眺めてみると、ヴィクトリア時代はイギリス社会の青年期にあたっており、社会経済に活気があって、大いなる発明時代でありましたことから、ちょっとしたことでも専用道具を作り出す傾向はあったと考えられます。

ただ、より大きな要因としてもう一つ、イギリス人って日本人より総じて不器用な人が多いことが、ボタンフックの普及にも関係しているように思います。 私のことで申し上げると、特に印象深いのは歯医者さんでの経験です。 以前にこちらの歯医者さんで親知らずを抜いた時、術後しばらく痛み止めを飲んでも大変な苦労をしました。 親知らずがややこしいタイプで簡単でなかったことを割り引いても、こちらの歯医者さんの器用さ加減に疑問がありました。

日英の平均レベルで考えても、こちらの人は体も大きめで手も大きい、器用さのレベルは低そうだと疑っています。 また、メンタル面でも細かいことが気にならない気質が、こちらの人の良い面でもあり、悪い面でもあります。 歯医者さんのレベルは、もちろん個々人の資質の問題でありますが、根っこのところでいかんともしがたい違いが横たわっているように思うのです。 

数年が経って、また別の親知らずが問題になったとき、今度は迷わず日本に一時帰国しました。 急ぎスケジュールの関係で二つの口腔外科で一本ずつ抜きましたが、ややこしい歯であるにもかかわらず、腕のいい先生方で、抜歯後の痛みは以前の経験と比べるとないも同然、よい意味でビックリ、驚きました。 日本では若く優秀な歯科医師が育っているなあと、感心しきりです。

帰りの飛行機でドイツ人と隣席になりました。 私が英国に住んで長いと聞いて、彼は私に英国市民権を取って英国人にならないのか?と質問してきました。 イギリスは住むにはよいところで気に入っているけど、日本の医療システムは英国より上だし、個々の医師のレベルも日本の方が高いみたいで、日本人はやめられないよ、と抜歯後間もないだけに実感のこもった日本自慢になった次第でした。

不器用でボタンかけが不得手なイギリス人といったら笑い話で済みますが、不器用な歯医者さんの割合が多いかも知れないイギリス社会といったら、そこに住む人にとっては深刻な問題です。 まあ、そうは言っても大半のイギリス人はそんなふうには思っていないでしょう。 私はイギリス社会のよそ者なので、違いに敏感なところがありましょう。

ヴィクトリアン or エドワーディアン 折りたたみ 鉄製 ボタンフック



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