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No.17175 アール・ヌーボー リリーパターン ヴィクトリアン シルバープレート テーブルスプーン エルキントン 1851年作
長さ 21.9cm、重さ 86g、ボール部分の最大幅 4.7cm、ボール部分の長さ 7.7cm、柄の最大横幅 2.7cm、1851年 エルキントン作、一万三千円

同じタイプのテーブルスプーンは、あと三本の手持ちがあります。 同じタイプのデザートスプーンは、あと二本の手持ちがあります。

ゆりモチーフのレリーフが華やかで、その優雅な曲線デザインを特徴とするシルバープレート テーブルスプーンです。 両面に見えるデザインの特徴から「Lily pattern(ゆりパターン)」と呼ばれます。 興味深いデザインであることに加えて、160年以上の時を経て現代に至っているアンティークであることも、この品の魅力を高めているように思います。 

キングスパターンやフィドルパターンといったメジャーなパターンではなく、マイナーパターンの一つなので、アンティーク シルバーウェアの参考書では紹介されることがあっても、実際に見かける頻度はそう多くありません、その意味でもレア物アンティークの一つ言ってよいでしょう。 

アール・ヌーボーの歴史を紐解くと、ゆりデザインは大きな役割を果たしてきました。 「Lily pattern(ゆりパターン)」は、エルキントンという有名どころのシルバースミス(銀工房)が、1850年に考案しデザイン登録したのが始まりです。 そしてChawner & Co.のパターンブックでは 「Lily pattern」と名前が付けられて、世に知られるようになった経緯があります。 ヴィクトリアン中期のNaturalism(自然主義)を代表するデザインで、アール・ヌーボーにダイレクトな影響を与えたデザインと言われます。

普段使いの一本として、例えばカレーを食べたり、実用品としてお使いいただいてもかまいませんが、いくつかの点から見て、写真のアンティークはミュージアム ピースにもあたろうかと、考えております。

(1) 今から160年以上昔のヴィクトリアン初期にあたる1851年作と特定できること。
(2) エルキントンがエレクトロプレート技術を使い始めて、ごく初期のシルバープレート製品であること。
(3) アール・ヌーボーの潮流にダイレクトな影響を与えたとされるリリーパターンのデザインが考案された当時のデビュー品であり、アール・ヌーボーの先駆けとなった品であること。

以前にリリーパターンのティースプーンをご紹介したことがありますが、そこで書かれていた内容が、裏付けられるヴィクトリアーナとして、レアな一品であります。 

写真四番目をご覧いただくと、「菱形にM」マークがエルキントンのデートレターで1851年作を示しており、このM刻印ははっきりと判読できます。 エルキントンのメーカーズマークは読み取りにくいところもありますは、17170 エルキントン スプーンと同型品であり、刻印の並び方や、読み取り可能な部分から判断して、1851年エルキントン作で間違いありません。

スプーンをテーブルに置いたときの接地面にあたる所にはシルバープレートが薄くなったりなかったりしますが、わずかな部分であり、全体として見て十分なる美しさをを備えています。

160年以上の年月が経過して、このコンディションを保っているとは、エルキントンのシルバープレート技術の高さを伝えていますし、そもそもシルバープレートの銀がかなりの厚みをもっているのだろうと見ております。

菱形に「M」のマークが、1851年作であることを示す刻印で、これはエルキントン独自のデートレター システムによっています。 シルバープレートの品においては、その大半が、もっと言えばおそらく99%以上の品では、製作年を特定することは出来ません。 エルキントンの品であっても、デートレターのある場合と、ない場合があります。

そうした事情の中で、1851作と特定できる写真のテーブルスプーンは、アンティークとしてめったにない優れた特徴を有していると言えましょう。 1851年といえば、日本はまだ江戸時代、二年後の1853年にペリー率いる四隻の黒船が浦賀に来航しておりますので、まあ、とんでもなく古い品だと言えるでしょう。

英国でアンティークという言葉を厳密な意味で使うと、百年以上の時を経た品物を指します、そして百年もので素晴らしいアンティークはそうはないものです。 写真のスプーンは正式な‘アンティーク’の仲間入りを果たしているどころか、二百年も見えてきております。 気に入った古いものを使っていくうちに、さらに時を経ていくことはコレクターの喜びとも言え、このシルバープレート アンティークにはそんな楽しみ方もあると思うのです。

エルキントンのアンティークは、岩波文庫の『特命全権大使米欧回覧実記(二)』を手元において楽しまれることをお勧めしたいと思います。 ヴィクトリア時代のイギリスの様子がサムライ時代の日本人によって報告されたアンティークな読み物です。

ヴィクトリア時代のイギリスは資本主義の発展を背景に、新たな発見や発明が社会を引っ張っていった躍動的な時代でありました。 そうした中でこの品を作ったエルキントンは、当時の英国社会の雰囲気を体現するようなシルバースミスであったので、その歴史には大いに興味を惹かれるのです。 さらに明治時代の文明開化の頃の日本とも繋がりがあったことから親しみを感じます。

明治維新から数年後の1872年に、欧米の進んだ制度や技術について見聞を広げ、新政府の政策に活かすことを目的として、岩倉具視を代表とする使節団が欧米に派遣されました。 使節団は一年十ヶ月に及ぶ大旅行をして、米、英、仏、独等、当時の先進国を見て回り、イギリスには四ヶ月滞在しました。

イギリスでの見聞記録は岩波文庫の収録されており、『特命全権大使米欧回覧実記(二)』として今日でも、この130年前のアンティークな記録を読み返すことが出来ます。 380ページに及ぶ大著ですが、すべては当時の英国の制度や技術を日本人の手で分析し報告したものです。 使節団は、先進的な制度や技術を見学させてもらいながら、ロンドンからスコットランドまで見て回っています。 当時の日英の格差は圧倒的でしたから、見るもの聞くもの、驚きの連続だったはずです、冷静な分析ながらこの書物の随所にその様子が現われています。

エルキントン社は当時英国でも一流の会社に成長しており、エレクトロプレートの技術を独占する会社として、使節団の工場見学のスケジュールに加えられていました。
報告書はエレクトロプレート技術にページを割いて詳細な報告を行っていますが、今読んで興味深いのはその先のくだりです。

『エルキントン氏会社の金銀器製造場に至る……(エレクトロプレート技術に関する詳細な報告は中略)……また、この場に日本の銅器、象嵌細工、七宝塗り等をあまた蓄え、苦心して模造をなせり。銅細工の場に、日本の紫銅の火鉢に、紫式部石山日記の図を彫刻したるものあり、……(中略)……その模鋳せるあり、その顔貌は真物に異ならず。凡そ西洋にて模造をなすものは、その原品の名誉ある証なり。社中の人より、日本にて象嵌の細工は、いかなる秘術ありて之をなすや、この場にて種々に術をかえて、模造すれども似ずとて、しきりにその術を学ばんことを望めり。また七宝塗りを模造せる場において、贋造と真物とを並列して、覧定せんことを要求せしによって、之を見るに鳳凰桐葉の画なるを、只に一の花紋を模するかの如くに模描し、一目にて真仮は判然なりしかば、皆その似ざることを嘆息せり。また柿本人麻呂像を持ち出して、その人は何人にて、略伝如何を問いけるにより、千二百年前の高名な歌人であることを述べたれば、喜びて筆記し、之に付箋したり。』

英国の先進技術を見学に行った使節団が、逆に日本の工芸技術について、エルキントンのイギリス人技術者から質問攻めにあって、多いに面目をほどこした様子が見て取れます。 柿本人麻呂の挿話に至ってはそのほほえましい情景が眼に浮かび、当時の日本人でなくても鼻が高い思いです。

エルキントンについては、英国アンティーク情報欄にあります「31. 『Punch:1873年2月22日号』 ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞」と「10. エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」の解説記事もご参考ください。

アール・ヌーボー リリーパターン ヴィクトリアン シルバープレート テーブルスプーン エルキントン 1851年作










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