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No. 15043 ヴィクトリアン スターリングシルバー エッグスプーン with 翼を広げた鷲 クレスト(紋章) SOLD
長さ 11.8cm、重さ 18g、ボール部分長さ 3.6cm、最大横幅 2.6cm、ボールの深さ 7mm、1881年 ロンドン、George W Adams(=Chawner & Co)作、SOLD

複数あった品ですが、一本になりましたので、写真を撮りなおしてみました。 

ちょっと珍しいアンティークをご紹介します。 写真の銀製スプーンは今から百三十年近く前のヴィクトリアン後期に作られたエッグスプーンと呼ばれるテーブルウェアです。 柄先には翼を広げた鷲の紋章が見えているのもポイントでしょう。 

写真のアンティークは、サイズ的にはティースプーンとほぼ同じなので、ティースプーンとされてもよいのですが、本来の用途は半熟ゆで卵専用のシルバーウェアでありました。 裏面の柄元に近いボール部分に絞りが入っていて、この辺りの銀の強度が強まるように作られています。 この辺りでもってゆで卵の殻を割ってやるというわけです。 ティースプーンサイズで小振りなわりには、18グラムと持ちはかりがあるのは、銀が厚めでしっかり作られていることを示しています。

私はエッグスプーンというと、名探偵ポアロの朝食場面を思い出します。 エッグスタンドにのった半熟ゆで卵の上の方をスプーンでコツコツして割ってやり、塩コショウをちょっとしてから、スプーンですくって食べるというものです。

英国のイングリッシュ ブレックファストにエッグは欠かせないわけですが、ポアロのような外国人でなくても、ゆで卵好きな人が多いのは面白いと思います。 思えばエッグスタンドも専用テーブルウェアになるわけですし、ゆで卵を保温するウォーマーを使う人もあります。

写真三番目に見えるホールマークは順にジョージ・アダムスのメーカーズマーク、ロンドン レオパードヘッド、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1881年のデートレター、そしてヴィクトリア女王の横顔マークです。 どれもしっかり深く刻印されていて好印象と思います。

ジョージ・アダムス(=Chawner & Co)はフランシス・ヒギンスと並び立つ有力シルバースミスで、英国アンティークシルバーの解説書なら、必ずといってよいほどその名前が言及されるヴィクトリア時代の銀工房ですので、その名前は覚えておかれてよいでしょう。

Chawner & Coは1815年にWilliam Chawnerが始めた工房です。
創業から1883年にAldwincle & Slaterに買収されるまで、何回か名前を変えています。

William Chawner 1815-1834
Mary Chawner 1834-1841
Mary Chawner & Co. 1842-1845
Chawner & Co 1845-1883

創業者William Chawner亡き後は、妻Maryが会社を継ぎました。 1845年以降はMaryの娘Anneの夫であったGeorge William Adamsが会社を継ぎましたが、1883年にはGWAが引退して、会社をAldwincle & Slaterに売却しています。

それから、メーカーズマークのそばには小さなジャーニーマンズマークも見えます。 ジャーニーマンズ マーク(Journeymanは徒弟の上で、マスターの下に位置する。)というのは、シルバースミスの工房の中で誰が手掛けた仕事かを示す職人ごとのマークです。 ジャーニーマンズマークの分析はアンティークシルバーの研究の中でも最前線にあって、こういうことを地道に調べている専門家がイギリスにはいます。

ついでに、この品のデートレターをご覧いただくと、その形が盾状をしていて特徴があります。 ロンドンアセイオフィスにおける19世紀のほぼ第四四半期にあたる1877年から1895年までのデートレター サイクルは「盾」と覚えておかれると、アンティークハントの時には便利です。 この時代はイギリスの国力が大いに伸張した時期にあたることから、今日においてもこの頃のアンティークに出会う可能性も高いのです。 デートレターをすべて暗記することは難しくても、「ロンドンの盾はヴィクトリアン後期」と知っておくと便利でしょう。

写真二番目にあるように、鷲の紋章がハンドエングレービングされているのは、この品の魅力と言えるでしょう。 リースに載った翼を広げた鷲は繊細な仕上がりなので、手元にルーペがあれば、アンティークを手にする楽しみが増えると思います。

紋章の基礎知識について、少しお話しましょう。 紋章はコート オブ アームズと言うのが一般には正式です。 クレストという言葉もありますが、クレストとは紋章の天辺にある飾りを言います。 紋章の各部分の名称として、例えば英国王室の紋章の両サイドにいるライオンとユニコーンの部分をサポーターと言い、中央の盾状部分をシールドまたはエスカッシャンと言います。 さらに細かく言うと、写真のエッグスプーンに刻まれた紋章では一角獣の足元に棒状の飾りが見えますが、これはクレストの台座であって、リースと呼ばれます。

英国王室の紋章については、以下もご参考まで。
http://www.igirisumonya.com/14864.htm

ただし、紋章のすべてを描いて使うのは、大掛かり過ぎるので、その一部をもって紋章とされることも多く、中紋章とか大紋章という言い方もあります。 しかし、その区別は厳密でないので、紋章の一部をもってコートオブ アームズという言い方をしても差し支えありません。

コート オブ アームズ(=紋章)を使っていた人々とは、どういう階層の人たちであったのか、考えてみました。

コート オブ アームズの体系化や研究は、イギリスにおいて九百年ほどの歴史を持っており、紋章学(Heraldry)は大学以上の高等教育で学ぶ歴史学の一分野となっています。 中世ヨーロッパにおいては、多くの国々に紋章を管理する国家機関がありました。 今ではなくなっているのが普通ですが、面白いことにイギリスでは紋章院がまだ活動を続けています。

今日のイギリスは品のよい国のように見られることが多いですが、歴史を紐解きますと、節操のないことで名高い時代も長くありました。 キャプテン・ドレークは世界を航海して略奪をきわめて、当時の国家予算に匹敵するほどの金銀財宝を奪って帰ってきたので、エリザベス一世から叙勲を受けました。 お金がすべてという傾向は、紋章院においてもあったようです。

紋章学や紋章院の働きについて書かれた本が、『HERALDRY IN ENGLAND』(Anthony Wagner著、Penguin Books、1946年刊)です。

この本によりますと、紋章院が認めてきたコートオブ アームズは四万あるとのこと。
一方で英国の王侯貴族にあたる家柄は千足らずとなっています。

この数字のバランスから分かることは、第一にコートオブ アームズは王侯貴族だけのものではないこと。 第二に、そうは言っても、代々伝わるコートオブ アームズがある家系は、英国の中でも数パーセントに過ぎず、その意味で日本における家紋とはだいぶ違っていること。

産業革命が進行して、新興富裕層が厚くなってきたのがヴィクトリア時代の初め頃になります。 当時の富裕層はコートオブ アームズを求めましたし、また求めれば手に入る性質のものであったようです。

ヴィクトリアン スターリングシルバー エッグスプーン with 翼を広げた鷲 クレスト(紋章)




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